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第24話  胸騒ぎ 

 海を見下ろす崖上に教会は建っていた。その教会の屋上に立ち潮風に吹かれながら、紺碧の青空を見上げたリリは、大きく息を吸い込んで言った。
「本当に天国にいるみたい、すごーい」
「あれがミネルバのいる病院」
ジョーの目線を追い駆けると、大きな白い建物がいくつも繋がった一角が目に入った。
「え…大きいのね…!」
大規模な総合病院だと一目でわかる。ふと不安がよぎる。自分なんかが働ける場所があるのだろうか…。
「ミネルバの家があるムーナシティはあっち。で、誰かさんがナンパされてたブーナシティはこっちな」
「…もう、意地悪なんだから。オレの家があるブーナシティって言えばいいじゃない」
「オーラーデ島はずっと南で見えないし、グラン島も見えないな。セヴァファームのビドル島は、真東」
ジョーと同じ海に目を泳がせたリリは、うっすらとシルエットを捉えた。
「あ! ね、あれそうじゃない? 島影」
「お〜、よくわかったな。正解〜」
リリは、遥か彼方の島影を見つめてつぶやいた。
「元気かな…」
「あ? 何言ってんだよ、一昨日、元気だったろ? 今頃、久しぶりの学校だ」
「そっか」
ふふふと笑ってこちらを見上げたリリの顔を、ジョーはつい見入ってしまった。笑ったり怒ったり拗ねたり、良く変わる顔。ふと、風が金糸の前髪を持ち上げて、彼女の額を露わにした。柔らかい午後の日差しの中で、うっすらと色の違う一筋にジョーの目は留まった。
「目立つ?」
ジョーの視線がどこにあるのか気付いたリリは、指でなぞりながら訊ねた。
「いつついたのかぁ」
リリの屈託の無さに、自分とは大違いだと思いながら
「目立たねえよ、オレは知ってるから見えるだけだ」
と答えた。確かに薄い傷痕だ。そんなところまで良くた傷を額に付けている偶然。違うのは、それを隠さずにいられる彼女と隠している自分だ。
「ねえ、ジョー」
振り向いたジョーの額の帯に、リリの手が伸びた。
「見たくないの、どうして?」
この帯の下を見た事のある数少ない一人であり、同じものを持っている彼女からの問いかけは、ジョーの心にさざ波を立てた。かろうじていつもの口調を保ち、からかいに出た。
「なんだよ、オレ様にキョーミ湧いっちゃった?」
「うん」
しかし彼女の答えは予想外だった。ストレートに肯定されたジョーは、何も返せずに彼女のまっすぐな灰紫色の瞳を見つめた。
「私と違って、ジョーのは、今のジョーに繋がってるでしょ。だから……知りたい…かなって」
語尾が弱まるのと一緒に、彼女は目線を落とした。ちょっと図々しいかもしれないと思いついたのだ。目の前で俯いてしまった彼女の、金色の毬のような頭で金糸がふわふわとなびいているのを見ているジョーの口から、するりと言葉が漏れた。
「お袋が…」
ジョーは、自分の声に我に返った。

 過去の話は避けて来た。あからさまに不機嫌になり、悪態さえつかずに口を閉ざして、その場からいなくなるので、ジョーに過去の話は訊かない暗黙のルールが出来ていた。

 しかし新参者のリリはそんなルールは知らない。目の前で自分を見つめている。彼女のその真剣な眼差しは、何故か疎ましく思えず、過去の話を振られたのに不快感が湧いてこない。

 そんな自分がなんとなく可笑しくなったジョーは、ふっと息を抜いてから、ちょっとした昔話をするように喋り出した。
「いや、親父がさ、事業に失敗して自殺しやがってさ。オレの親父、資産家のお嬢様だったお袋のとこへ婿養子に入ったから、肩身狭かったんだろうけどな。で、お袋はおかしくなっちまって、なのにオレは16歳のガキで何もできなくて……。オレ、親父にそっくりらしくってさ、壊れ初めの頃のお袋が、オレを親父だと思って暴れて。「どうして私たちを置いて逝っちゃったのー」ってよ。で、お袋が投げて割れた皿の破片がヒットしちゃって、お袋の目の前でスプラッターになちゃって。さすがにお袋もビビッてさ。それ以来、傷跡見ると、「ごめんなさい」って泣くようになっちまって……。オレのことなんて誰だかわかんなくなっちまっても、自分が付けちまったコイツだけは忘れないらしくて必ず泣くからさ、だから、見えないようにって………。そうだよな、とっくに隠す必要なかったな、お袋もういねぇんだし」
ははっと笑ったジョーの手を、リリは握った。
「なんだよ? あ〜、可愛そうとか辛かったでしょうとか、カンベンだぜ?」
うんざりした風で言うジョーに、リリは短く言った。
「違う…!」
リリの頭の中で、セヴァの言葉がぐるぐると渦巻いていた。

―――ジョーのスピードは、死神にさえ楯突く様な強い怒りを燃料にしている。

 怒りは悲しみの成の果てだとリリは思っている。
絶望に飲み込まれそうな悲しみの渦中で、捨て切れない最後の希望。それが届かない苛立ち。叶わない苦しみ。それらが怒りに化けるのだ。
(セヴァさんの言っていたジョーの怒りは、お父さんやお母さんへの思いなんだ。お父さんに置いて行かれて、お母さんに忘れられて、一人にされて傷ついて……今も癒されないまま、寂しいままなんだ…)
涙が滲みそうになったが、それは少しもジョーを助けないと承知していたリリは耐えた。そして、
「ジョー、私はジョーが大好きだよ」
ジョーの手をぎゅっと握り直して言った。
 突然の言葉に振り向いたジョーを、彼女はさらにしっかり見つめながら、
「ジョーが居てくれて嬉しい。広い宇宙で、同じ時間に、同じ星に、目の前にこうして居てくれて私は嬉しい。大好き」
ジョーは、真剣な彼女にどう返していいのか判断できず、ただ心臓だけが早鐘のようだ。
「私だけじゃない、そう思ってる人、たくさんいるよ」
……ああ、そーゆーことか。
ジョーの鼓動が加速をやめた。いつもの口調が使えそうだ。
「まぁな、オレ様カッコイイからな」
「……それはわからないけど、…」
彼女の表情はまだ真剣だ。マジメにカッコイイかどうかは分らねえとか言うな!と心の中で毒づいた時、
「でも、大好きだから」
遠慮がちにではあったが、しっかりと繰り返され、ジョーの鼓動は再びどくんと強く跳ねた。

『大好き』だの『愛してる』だのは言われ慣れている。――慣れているのに、何故こんなにドキドキするのか、ジョーは焦った。なんとか平常心に戻りたいジョーは、
「で、オレはどうリアクションしたらいいの? 愛の告白、サンキュー。とか?」
そう言いながら、覆いかぶさるようにリリを抱きしめてみた。もちろんジョークだ。これで彼女が「ばか!」とか言って、おちゃらけた雰囲気に変わるはず。

 だったのに、ジョーの背中に回ったリリの手が、そっとぽん、ぽん…と動き出した。
「あ? ガキみたいなことしてんじゃ――」
体を離そうとしたが、ぎゅうっとリリにしがみ付かれた。
「大好き…!」
切実な告白。ジョーの心臓は、またどくどくと激しく脈打つ。そんなことは知ってか知らずか、リリはジョーの背を優しくぽん、ぽん、と叩く。

 ジョーは抵抗をあっさり諦めた。気持ち良いのだ。腕の中にすっぽり収まっている小さな彼女の温もりと、背中に伝わる甘いリズムは、乱れたジョーの鼓動を満ち足りた穏やかな波へと変えて行った。
 
 しばらくそのままでいたジョーだったが、ふと我に返るとさすがに恥ずかしくなった。人目は幸いなかったが、かと言って恋人でもなく、ましてやボーズと抱き合っているのは変な話だ。ジョーはわざと抱き込んだ彼女に体重を乗せて行った。
「? ジョー…、ちょっと…重い…、ねえっ!」
とうとう支えきれずに、彼女の膝はがくっと折れた。折れた膝が地につくすれすれでジョーは彼女を抱えた。彼の腕の上で彼女は大きく仰け反り、目をまん丸く見開いている。
「だらしねぇな」
「もう!」
ふざけた雰囲気に持って行こうとしたくせに、腕の中で怒っている彼女の顔をつい見つめてしまう。

 リリの方は、自分を見ている彼の青く澄んだ瞳の中に、自分の影が映っているのに気づいて、どきんとしてしまった。さらに今の状態は、誰がどう見ても彼に抱きかかえられている。

 どうしてジョーはこんな意地悪をするの。

 でも、意地悪なのに瞳はなんて優しいんだろう。
 
 意地悪されているのにどきどきしているなんて、変な私。

 自分で自分が分らなくてフリーズしかけた時、頭上で鐘が、かー……ん、…かー……ん……と、四つ響いた。
軽い音が長く延びて空に吸い込まれて行くのを振り仰いだジョーは、彼女を立たせると、
「行くか」
と言って、階下へ降りる階段の入口へと歩き出した。
 リリもまた青空を見上げて、鐘の音が去ってしまうのを追いながら、ジョーの後に続いた。





 石段を下りる二人の靴音だけが響いていたが、沈黙を破ってジョーが言った。
「じゃあ、今度はオレが訊く番な。ロイからの写真を見て、何で泣いた?」
ジョーの問いはあまりに予想外で、リリは何の事かすぐには分らず、前を歩くジョーの背中を見つめた。
「打ち上げの写真だよ。ロイが撮ったヤツ」
言いながらジョーは思う。今、思い返しても気分が良くない。ロイに向かって咲いたリリの笑顔のスナップ。
「あ…、あれ、……は……」」
やっとわかったリリは、どう答えていいものか、また言葉が出ずに黙ってしまった。ただし今度はジョーの背は見ない。――見られない。俯いて石段を降りながら、一生懸命に考えた。
 先を歩いていたジョーが、振り返って立ち止まった。
「なんで?」
数段下がっているので同じ高さに顔がある。まっすぐにリリの目を見ながらジョーはもう一度訊いた。答えなければ通さないとでも言わんばかりに立ちふさがっている。追い込まれたリリは駆け引きなどする余裕もなく、正直に一言を漏らした。
「嬉しかったから……」
それだけでは納得するはずもなく、ジョーは微動だにしない。
「…もう、わからないままかもって…思ってたから、花の名前……」
「だからって泣くほどの事かよ」
「だって! どうしてもあの花の名前が欲しかったんだもん! なのに分らなくて、調べたくても、肝心の花が、ちゃんと覚える間もなく海に――」
リリは慌てて言葉を飲み込んだ。が、ジョーは聞き逃さなかった。一瞬にして理解した。

――海に捨てられてしまった、アレンに。

 持って来たジョーがすぐに髪に差してしまったし、その後は手に取って眺める前にアレンに捨てられてしまったから、細かく観察して覚えることができなかった……という事なのだろう。
「…バカだなおまえ、アレンに嫌われた花なんか名前にしてよ」
その言葉に、リリは凛と言い返した。
「違うよ、リリの花は、私の幸せが願われた花なんだよ」
願いをかけてくれた張本人に花をぞんざいに扱われて、彼女は少し怒っているような表情でジョーを見つめ返した。
「私には大事な花なの」
ジョーの鼓動が早くなる。何も言い返せないジョーの横を、リリはぐいと通り抜けて早足で階段を降りて行く。
逸る気持ちを隠して、仏頂面を決め込んでいるジョーは、彼女を追いながら背中に投げた。
「誤解だって言やぁ良かったじゃんか、捨てられちまった時に。そうすりゃ、こんなんなるまでこじれなかったんじゃねーの?」
「こじれたから別れたわけじゃないし」
ずんずん降りながら振り向きもせずにリリは答える。
「…『もう話さない』宣言までしたじゃんかよ」
翌朝のそれは、何とかアレンとの仲を修復したい表れだったくせに。胸の内でそうジョーがぼやいた時、リリは急に止まった。
「だって、どんどんアレンが誤解して行って、すごくジョーと仲悪くなっちゃったら……って思ったら…」
「あ?」
また彼女は降り始める。
「ジョーとアレンは、大親友で、そんな二人が、ぎくしゃくしちゃうなんて、しかもそれが、私のせいとか、絶対ヤダって…」
ちょっと待て、とジョーは喉まで出掛ったが、頭の中を整理しようと飲み込んだ隙に、彼女が立ち止まって言った。
「でも、でもね、ごめんなさい。私、勝手だった。いきなり「もう話さない」なんて言われたら、誰だって気分悪い、怒っちゃうよ。――ジョー、怒ったよね…当然だと思う、本当にごめんなさい」
振り向いて彼女は頭を下げた。
「…それなのに……」
頭を上げた彼女は顔までは上げることができずに、うつむいたまま続けた。
「朝、そんなひどい事言った私を、夜、町で助けてくれて……お家に…泊めてくれて………、あ、今も泊めてもらってるけど……、ありがとう…」
黙ったままジョーは聞いていた。つと顔を上げた彼女は、照れくさそうにおずおずと白状した。
「あの夜、ジョーが出してくれたスープね、すごくすごく温かくってね、嬉しかった、です。……嬉しくって申し訳なくって、ありがとう、ごめんなさいってぐるぐる思いながら爆睡しちゃった」
くるりとまた前を向いて、彼女は石段を降り出した。
とんとんと降りて行く彼女の後姿を見ているジョーの心は嵐のようだった。

 あの時の涙は、アレンへの涙じゃなかったのか。「ごめんなさい」という譫言(うわごと)は、オレにだったのか?

 あの夜の彼女がまざまざと蘇る。真っ白な顔と、まつ毛に光る涙の粒。抱え上げた時の感触まで思い出せる。あの時の彼女の胸の中に、自分への思いがあったとは……ほんの少しだったとしても、あったとは…!
 




 長い廊下を歩いていた彼女は、開いている扉を覗き込んだ。
「うわぁ、素敵。ねぇジョー、礼拝堂だよ!」
嬉しそうに中へと入っていく彼女を、ジョーは入口に立って見ていた。
 真正面にあるステンドグラスから七色の光が差し込んだ、こじんまりとした副礼拝堂だった。
 宗派は良く分らない。大昔から地球にはあらゆる宗教が存在していて、共通しているのは、神がおわします事。各々が自分の神を信仰している。強要や統一は無意味だ。
 
 ジョーは人を殺める決意をした時から、神に祈った事はない。レース前も例外ではない。ダメな時はダメなだけだと思っていたし、そもそも神の公平なる恵みなど信じていなかった。
 神の慈悲を信じていないだけで、神を信じていないわけではないジョーは、不信心な自分が礼拝堂に入る事が躊躇われて、入口にたったまま動けずにいたのだ。
 
 そんなジョーの心情など知らないリリは、膝まづくと指を組んで頭を垂れて神へ向かって話し始めた。
「日々の暮らしを感謝します。えと、ミネルバさんが一日も早く帰って来ますように。そして紹介してくださるお仕事が、いいお仕事で、私に決まりますように。そしてそして、住むところも早く見つかりますように。なるべく日当たりの良い場所で、お仕事先に近くて、できたら広くて、きれいで、お家賃が安いところが見つかりますように」
「図々しい女だな、神様も呆れてるぜ」
そう言いながら、思わずジョーは、礼拝堂の中へ踏み出していた。
 彼女の言葉を聞いていたら、まるで……今すぐに神が彼女の願いを聴き入れて目の前から連れ去ってしまいそうな気がして、そして、それは嫌だという焦燥感に襲われたからだ。
 
 胸騒ぎ。

 バカバカしい、まるで不要な胸騒ぎだ。

 くりっと後ろを振り向いた彼女が口を尖らせた。
「神様はそんなケチじゃないもん。そうよ、ジョーのことだって聴いてくれるんだから」
また前を向いて頭を垂れる。
「意地悪で、威張りんぼで、エッチで、レースでは無茶ばっかりするどーしようもないジョーですが、」
「あ?!」
「でもどうか、まだまだお召しになったりしないで下さい。こんな人でも私には必要なんです」
「……」
「家主に居なくなられたら困るので」
「……。てめえ、いつまで居座るつもりだよ!」
「えへへ。それから……肝心なところでもちゃんと威張れますように」
「?………」
「16歳の自分はちゃんと頑張ったんだって胸を張れますように」
「………。なんだ、そりゃ……」
ジョーは無感心を装い呟いた。
「ついでに、一人にされちゃったことも「仕方ない、もういっか」って許しちゃえますように」
「………」
見つめていた彼女の背中が突然ぼやっと滲んだので、ジョーは慌てて天井を振り仰いだ。鏡が何枚も貼り巡らされている天井から、こちらを見下ろしている自分がいた。驚いたように目を見開いて眉根を寄せ、唇をぎゅっと噛みしめている。

オレは怒っていたのか―――。

胸の奥の、奥深い冷暗な部分で、重い扉が勢いよく開かれたような、そんな感覚に襲われた。

彼女の、あえて明るい口調の祈りが続く。
「そして、大切な、大好きな家族を、また愛せますように」
彼女の声を聞きながら、視界と一緒に全身の意識がゆるゆるとぼやけて行く。

「愛している」と、母から、父から何回言われただろう。
甘美な気持ちが蘇る。
愛していると抱きしめられ、僕もだよと思い切り抱きしめ返した日々。

父母と共に、永遠にあの心地良さも失ったと思っていた。


でも、違うらしい。今もあるようだ。自分次第だと、リリが言っている。


天井を仰いだまま、一度だけジョーはぎゅっと目頭をこすった。クリアになった視界の中で、うずくまる彼女の頭が七色の光を浴びて光っている。
「……ラス・ポウナ…」
「え?」
振り向いたリリは、天井を見上げているジョーを見た。
鏡の中の光の毬も動く。それを見つめながら、もう一度ジョーは呟いた。
「ラス・ポウナ」
「ラスポー…? ジョーの国の言葉?」
ジョーは目線を下げ彼女を見た。

 柔らかく煌めく七色の光を背にしている彼女は、とても…神々しく見えた。その彼女が自分のために祈っている。
「ラス・ポウナ」
ゆっくりと彼女へ向かって言う。良く聞き取れた彼女は復唱した。
「ラス・ポウナ」
上手に言えたとばかりに、彼女はにっこりと笑った。
「どんな意味?」
うっかり微笑み返しそうになったジョーは、彼女の質問で我に返った。
(…意味…?)
彼女を見下ろしながら、ジョーはみるみる頬が熱くなっていくのが分かった。
(オレ、何を口走ってんだ?)
リリは無邪気に待っている。ジョーは動揺を押し殺して言い放った。
「バーカって意味」
「え!?」
途端に彼女の表情が変わった。
(そうそう、このコロコロと変わる表情。ったく可愛いいんだよな)
と思ってしまって、それに気づいてまた激しく動揺した。
(いやいやいやいやいや! 可愛いとかおかしいだろオレ! つか、こいつに対して、愛……、、、、だなんて、どうしちゃったんだよ!!!)
ジョーの心中は大パニックだった。そんな事など露程も知らないリリは、立ち上がって反撃に出た。
「バカって言った方がバカなんだから! ジョー、ラス・ポウナ!」

 違う意味で使われたとは言え、真正面から正々堂々と母国語で「ジョー、愛してる!」とリリに言われて、ジョーはそれ以上何も言えず、礼拝堂を出るべく歩き出した。
 甘い胸騒ぎを抱きながら。

第24話  胸騒ぎ  END
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